12/9 ポスト990円ジーンズ! ファッションの過去現在未来

今日は東京大学修士一年の江崎肇さんが「ポスト990円ジーンズ」というタイトルで、ファストファッションの過去現在未来について話して下さいました。
モンテベルデに着いてみると、何やらジーンズが何本か並んでいます。まずは、このジーンズの値段を当てることから始まりました。
400円?4万円のジーンズ。ほとんどは「ファストファッション」にカテゴライズされるブランドの製品です。
見れば見るほど値段が分からなくなるジーンズを目の前にしながら、真剣に悩みました。

江崎さんの発表は、
1、 ジーンズの制作行程
2、 ファストファッションとは?
3、 ファストファッションの問題点
4、 これからのファッションの予測
の4部構成でした。

1、 ジーンズの制作行程
ジーンズは、1、テキスタイル(糸など、原料)の製造 2、裁断、縫製などの製造工程 3、店頭での販売 の段階を経て消費者に届けられます。
テキスタイル分野では日本が強く、貝原がトップブランドからユニクロまで幅広いブランドのテキスタイルを担っているそうです。
裁断、縫製などは人件費の安い中国や東南アジアで行われます。
そして、日本に輸入され、店頭に並びます。

2、 ファストファッションとは?
現代用語の基礎知識によれば、『百貨店の苦境が続く中、売り上げを伸ばしている「安くて手軽なファッション」のこと。日本ブランドであるユニクロやしまむら、g.u.が健闘していたが、海外からH&M、ZARA、フォーエバー21などが参画してきたことで、大きな社会現象になった。』まあつまり、「長く大切に使うよりも、その時点でのニーズや流行に焦点をあてた服」という解釈がされています。これは私たちとの実感とも一致しています。
これとは別に、アパレル関係者の間では「企画から販売までの期間が短く、また商品の寿命も短いもの」という「ファスト=速い」の解釈がなされているそうです。

ファストファッションには主に3つのグループがあります。
一つは、初期のユニクロやGAPのように、「ベーシックなデザインのものを大量に生産。規模のメリットを生かし、品質が良くて低価格」というスタイルです。SPA(製造小売)の形式で全行程を一括管理するため、高品質低価格を実現しています。ただし、デザインに面白みがないこと、他人と同じ服になる確率が高いことなどが短所となります。
二つ目は、H&MやZARAなどのような「トレンドを取り入れた服を安く。そのかわり品質は二の次」というスタイルです。通常の服は企画から販売までに6ヶ月程度の期間を要しますが、例えばZARAでは企画から販売まで最短で10日という驚異的なスピードが実現されています。このようにフットワークが軽いことで、トレンドをいち早く取り入れたラインナップが可能となっています。
最後に、Forever21やしまむらのような、「自社で生産はせず、各メーカーから買い付ける」という方法です。こちらも規模のメリットを生かすことで安く仕入れ、豊富な品揃えを実現しています。しまむらは「一つの店舗に同じ服は2着まで」というルールがあり、特に服を買いにいく店の選択肢が少ない地方において、「人とかぶりたくない」という欲求を実現しています。このタイプは、バラバラのメーカーから買い付けるため、品質にばらつきが生じやすいことが短所です。

このように、いくつかのタイプに店を分けることができます。どの店にも共通するのは、「まあ安いから、いっか」と思わせるところですね。
そしてトレンドを追いファストファッションを購入することは、「服を買うわけではなく、情報を買って着る行為」なのです。
私たちはファストファッションを買うことで、服ではない何かを手に入れようとしています。逆に、そういうインセンティブがなければ次々と服を買う理由など見当たらないのです。

3、 ファストファッションの問題点
一番の問題点は、低価格を実現するために生産の段階で発展途上国の労働者が酷使されている、というものです。海外では大きなニュースとして取り上げられたこともありました。
不衛生な環境の工場で労働させられたり、時には子供が酷使されます。
食品では「フェアトレード」が浸透してきましたが、服も今後は「ギルティーフリー(着ていることに罪悪感を感じない)」が一つのキーワードとなり、選択される時代が来るかもしれません。

また、もう一つの問題点として「ファストファッションとしてトレンドを追うあまり、どのブランドも画一化してくる」ということが挙げられます。
「109はどの店も同じに見える」という発言もありましたが、作り手の個性が炸裂するトップダウンの一流ブランドの服とは違い、市井の流行が生むボトムアップのファストファッションは確かに本質的に画一化してきます。
規模のメリット以上のものでどのように各ブランドが差別化していくかが、今後の鍵になると思います。

4、 これからのファッションの予測
江崎さんは、これからのファッションは、
1、 モジュール化する
2、 二次創作が発達する
3、 交換市場が成立する
と予測しました。

ファッションのモジュール化とは何か? その名の通り、ファッションが「要素、部品」に分解されていくということです。
古来、服はそれぞれの人間にあわせて一つ一つ手作りされるオーダーメードの製品でした。アントワネットのドレスしかり、侍の裃しかり。服は究極に「その人個人のための」モノだったのです。そして、服がその人の身分や社会的役割を表現しました。
しかし、レディメイド、既製品の時代になり、服は「その人のために用意されたもの」ではなくなってしまいました。人間が服に対して受け身になりました。
まだ「学校の制服」「仕事ではスーツ」など、多少服が「人間を表す」役割は生き残っていますが、豊かではない人間が食費を切り詰めてまでブランド服を着たり、学生が高い鞄を持ったり、もはや服が記号として頼りになるための社会的制約は消えてしまいました。
そのように服の役割が変遷していた今、次の時代は、服はレディメイドで記号としての役割を担うことはもはや不可能であり、一つのアルファベットとしての、人間を表現するためのパーツとしての役割のみを担います。
アルファベットであるファッションを組み合わせることで、個人が自分なりの文章をファッションで紡いでいくことになります。

例えば、「組み替えのできる指輪」を、江崎さんの友人が制作しました。指輪がバーツに分解され、プラモデルのように組み立てられます。パーツの選択肢はいくつもあり、自分の好みの選択をすることで一つの指輪が完成されます。
その他にも、組み替えのできる鞄が紹介されました。

現在も「組み合わせて着こなす」発想は広く受け入れられています。
この自由度が、爆発的に増大していくのでしょう。

ファッション二次創作で、一番分かりやすい例えは「コスプレ衣装」でしょう。アニメのキャラクターの衣装を、三次元の服として創作してしまいます。
日本では、文章や漫画などによる二次創作は非常に盛んなため、ファッションでも取り入れる素地が十分にあります。
データ化して場所の制約を受けにくい本とは違い、ファッションは現物として存在するため、マーケティングのハードルは高いでしょう。
しかし、新しい産業として期待していけると思います。

また、現在、古着市場が拡大しています。古着を着ることに対しての抵抗が薄れてきていることも背景にあります。本の世界ではブックオフがその地位を確立したように、服の世界でも古着市場は服飾市場全体の10%程度まで拡大すると見込まれます。
服飾産業の経済の視点から見ると不利な要素に思われますが、ファッションという世界そのものが広がると考えると、どのような市場が形成されていくか楽しみです。
服を物々交換するイベントも行われ始めています。

江崎さんは最後に、「服は自分が帰っていく家みたいなもの。何もなくなっても最後にそこにあり、一番近くで自分を守ってくれるもの。自分を外に対して表してくれるもの」と服への思いを語って下さいました。
確かに、家族より恋人より、一番長い時間、自分に触れているものが服です。
自分と外界を隔てるものであり、自分を守るものであり、自分を表すものである。
ファストファッションは、安いことやトレンドを追うことに意味があるのではなく、「ファストファッションを着る」生き方をする選択肢を提供したことに意味があるのかもしれません。
もう一度クローゼットを見返して、そこにどんな自分の生き方があったのか振り返ってみたいな、と思いました。

P.S.
ファストファッションの中で、江崎さんの一押しは西友です。
ウォルマートがバックにいるだけあって、実はかなりいいデザイナーの服が手頃に買えます。
「とりあえずユニクロでいいよ」というあなた、ちょっとのぞいてみて下さい。

tomoyo について

東京大学工学部応用化学科4年、藤田研究室所属 有機系の研究室で、主に錯体化学を扱っています。 柏葉会という合唱サークルに所属しています。 よろしくお願いします♪
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